筆者が若い頃、米大統領の演説をリアルタイムで視聴できるような環境は想像することすら出来なかった。
しかし、2025年のSNS社会では、もはや外国と日本の壁が無くなってしまった。筆者は、トランプ氏の演説を、自国の元首の演説を視聴するのと全く同じように体験した。
40年間、海外の顧客や協力者と仕事をしてきたから、今回の演説の一部始終は、通訳のサポートなくすんなりと受け取れた。 日本のマスコミも動画配信者の解説も必要なく、米国のFOXが生中継する議会を視聴するだけの体験だった。
筆者は、とりたててトランプを祭り上げるつもりはない。しかし、この演説は、ひとつの国のイベントではなく地球規模の出来事として見ておくべきだろうと思う。その内容には、賞賛できる部分もあれば、残念に感じる部分もある。
筆者なりに感じたことをいくつか紹介する。
元首の知恵と演出
トランプ大統領が今回の米国議会全体会議で発した演説は、再選を果たした大統領が、今後どのようなリーダーシップを発揮するかを議会に訴える場である。いわば政治家としての大統領の第一声と言える儀式的なイベントだ。
トランプは、しかし、政治家の演説はしなかった。彼は抽象論が嫌いなのだ。
トランプの演説は紛れもなく、「実業家」の演説だった。あたかも国家的な事業のCEOが全ての関係者に対して「米国をとりもどした」という事実ををできる限り具体的に示したものだ。
演説は数字と証明で構成されていた。トランプは、バイデン政権の過ちの犠牲になった一般市民をこの議会に招待して、次から次へと全国民に紹介した。
凶悪な移民に親族を殺害された家族、公務中に暴漢に殺害された警官の家族、解放された捕虜とその葉母親、がんで余命は数ヶ月と宣告されながら警官になる夢を叶えた13歳の少年、トランプ暗殺未遂事件の現場で命を奪われた消防士の家族などが次々と紹介され喝采を浴びる演説となった。

トランプは、多くの高齢者に支払われた社会保険金の中に、存在が疑われるケースがあることを指摘した。注目した被保険者に数えきれない100歳以上の人間が登録されていた。あるものは360歳という年齢で社会保険に加入していた。米国の歴史よりも100年多い年齢だった。ここまで大袈裟でなくとも百数十歳という疑わしい年齢の加入者が数千人もいて、何百万ドルもの保険金が支払われていた。
実業家としての演説は、『これから何をするか』ではなく、『今何が起きているか』に重点が置かれていた。そのほとんどは公約の実現に他ならない。
米CBSの調査によればこの演説を76%の国民が意味あるものとして認めたという報道がなされている。

過度に冗長なのは挑発か?
前述の通り、演説は「これでもか」と言わんばかりの具体例の羅列であったから、それを聞かされる民主党(現在は野党)の議員たちはショックを受けたに違いない。ここまでしつこい数字と証明の連呼は、たとえ正しい行動の説明であっても、結果的に過度に挑発的な言動に映ってしまう。
事実、この議会での民主党の代議委員集団の対応は、翌日の米国の民放が報じたように、歴史に残るほど見苦しいものだった。声を出して遠悦を妨害すると、議長から退場を命ぜられるため、野党議員たちは個々人がプラカードを持ち込んで「 FALSE(偽りだ)」「MUSK STEALS(イーロンマスクは泥棒)」といった無言の主張を繰り返した。

通常の議会であれば、与野党の立場を忘れて立ち上がり喝采するような事案、例えば前述の解放された捕虜とその母親の話、13歳のがん患者の少年、殺された警官の親族へのサポート、これらの紹介の場面でも民主党義委員が決して反応せず、トランプのプレゼンに対しては終始険しい表情で座ったままであった。
演説の直前に、トランプはウクライナのゼレンスキー大統領との公式会談で対立して世界に動揺が走ったが、その後、この演説での民主党との極めて強い対立感情の応酬は、ウクライナの事変が影を潜めるほどの劣悪なものだった。
日本の議会と何が違うのか
トランプの知恵と演出のような演説が、果たして日本の議会で披露されることが可能だろうか?
文化の違いと言ってしまえばそれまでであるが、英国議会であっても、トランプ並みの演出を含む演説は困難である。
政党政治で成り立つ日本の議会では、トランプの大統領令的な打ち手は、単なるスタンドプレーであり、少しでも矛盾や失策があれば、野党とマスコミの集中攻撃に遭うだけだ。
議会に元捕虜であった人物を傍聴させたり、13歳のがん患者を読んだり、殺害された被害者家族を呼んでしまうという行動力も、たとえその背景に金銭的援助があったとしても、日本の議会ではあり得ない光景であろう。

民衆の目に焼きつくようなはっきりとした行動や意思表示は、ある意味では英雄的であり、わかりやすく人々の感動を呼ぶが、その一方で、これを是認しない立場で見れば、いかにも挑発的で攻撃的な挙動であり、対立を激化させることになる。首謀する国家元首が暗殺されるのはそういう局面が出ている時である。亡くなった安倍晋三氏も、これに近い形で命を落としたという見解も散見される。
冗談はどこまで許されるのか
トランプの演説だからなのか、米国議会の通常の雰囲気なのか、今回の生中継で次々に発せられたジョークの中には、耳を疑う辛辣なものがあった。
USAIDの無駄な援助資金の根絶の話においては、こんな冗談がトランプの口から出てきている。もちろん日本や米国のマスコミはこの辺りは聞き流している。
- アフリカのレソトという国のLGBT運動に8百万ドル援助していたが、今まで誰も「レソト」という国について聞いたこともない(笑)
- ネズミのトランスジェンダー開発に8百万ドルも使っていた。これは本当の話(笑)
- 47百万ドルもの資金をアジア諸国の学力強化に使っていたが、すでにアジア諸国は学力強化について先進的だ。米国の学力に金を使うべきではないのか
- 米国の社会保険制度に登録している老人で現在360歳という人物がいる。米国の歴史より100年も長い年齢というのはどう解釈すれば良いのか?(笑)
360歳などという保険利用者の事例をトランプが喋った瞬間、共和党議員の集団から「ジョー・バイデン!」という野次が飛んで議員諸氏は苦笑していた。その360歳というのはバイデン元大統領のことじゃないのかというジョークである。米国の全国ネットで放映されている議会でそういうヤジが飛ぶのだ。
最後までご覧いただき幸甚です。
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