いまさら暗号資産:講座7 サトシナカモト秘話

偉人鉄人超人

アイキャッチ画像はイメージです。 昔から重要書類の受け取り時にスタンプを押して日付と時間を記入することは公文書の取り扱いでは一般的な情報処理である。 image photo by envato lements.

暗号資産の代名詞でもある「ビットコイン」を発明したのはサトシ・ナカモトであるという事実は誰でも知っていることです。

ところが、彼が「何のために」ビットコインを発明したのかについて、正確に理解している人は非常に少ないと言えます。疑問に思うのであれば、ぜひこの記事をお読みください。

この人物(サトシ・ナカモト)の所在については、今でもあらゆる情報メディアが真相を突き止めようとしていますが、今も不明です。

しかし、彼が何のためにビットコインを世に出したかについては、非常に多くの資料が残っています。ビットコインの学術的な文章はホワイト・ペーパーとしていつでもネットで参照できますが、それ以外にも、彼の文章(特にウェブフォーラムなどでの発言記録)は特設ウェブサイトで公開されています。情報の発行元は

“satoshinakamoto.me”

という特設サイトで、情報は全て Public Domain(一般公開済みであり著作権が設定されていない)です。

注意: satoshinakamoto.me は ”https” ではないため、通信情報が暗号化されません。このサイトに個人情報を送信すると、簡単に第3者やハッカーにあなたの個人情報が流出してしまいます。サイトの参照は短時間にして、必要情報はコピーしてサイトを閉じるようにしましょう。長時間サイトを開けたままにするのは危険です。

スポンサーリンク
afima link

この講座の趣旨

この講座で解説するポイントは次の通り

ビットコインの発明者は;

銀行のような管理者を必要としない取引方法を提案している

  • ビットコインを投資目的として紹介してはいない
  • ブロックチェーンという技術用語は使っていない
  • 資産(お金)の暗号化とデジタル署名をコア技術としている
  • タイムスタンプ付き帳簿を公開することで2重払い問題を解決した

読者に理解いただきたいテーマは、このビットコインの発明の趣旨は「資産運用」ではなく、「銀行を必要としない当事者間の安全な支払い処理」だったということです。

ここでいう「安全」とは、私たちが日常的に、銀行などの金融機関を「信用」しているという極めて危うい経済活動からの解放を意味しています。

サトシ・ナカモトは、一般社会に名の知れた銀行であっても「信用がない」という前提に立っています。つまり銀行を信用する時代は終わることを予想しているのです。

ですから、現在のビットコイン利用者が「交換所」だとか「両替所」と呼んで利用している(銀行よりはるかに小規模で信用度の低い)会社や組織に頼ってコインの取引を行っている事実は、

サトシ・ナカモトの当初の開発目的と「真逆」の展開であるということになります。

前回の講座でご紹介した野口悠紀雄教授が何度も力説しているのは、まさにこのことなのです。

以下は、2009年の2月にサトシ本人が公開フォーラムに投稿した文書の邦訳です。訳出は、まず Chat GPT に作業させ、その後、筆者が表現や専門用語を調整した結果です。

ビットコインの目的(本人談)

この文章は、satoshinakamoto.me に掲載されていますが、英文であり、参照履歴を見ると、わずか38,000回でしかなく、日本のビットコイン利用者が頻繁に参照しているとは思えません。邦訳を掲載しているのもおそらく筆者(無禄)だけです。

出典:February 11, 2009  Satoshi Nakamoto, P2P Foundation

Bitcoin : オープンソースのP2P通貨

「Bitcoin」という新しいオープンソースのP2P電子現金システムを開発しました。このシステムは完全に分散型で、中央サーバーや信頼できる第3者が介在しません。すべては当事者の「信用」ではなく、「暗号による証明」に基づいています。よければ(Bitcoinを)試してみるか、設計情報を参照ください。

「信用」という脆弱性

従来の通貨の根本的な問題は、それを機能させるために必要な「信用」です。中央銀行が通貨の価値を下げないよう信用しなければなりませんが、法定通貨の歴史にはその信用が裏切られた事例が数多く記録されています。

私たちが銀行にお金を預け、お金を電子送金してもらう時、銀行を信用して利用しています。しかし、銀行は準備金のほんの一部しか保持せず、信用バブルの波を引き起こしながらお金を貸し出しています。

さらに、私たちは、銀行を信用して個人情報を預けなければならず、犯罪者が私たちの口座を空にするリスクを防ぐことも銀行に依存しています。銀行の巨額な管理費用のため、少額の支払いは不可能です。

一世代前、マルチユーザーのタイムシェアリングコンピュータシステムにも同様の問題がありました。強力な暗号化技術が登場する前は、ユーザーは「パスワード」に依存してファイルを守り、システム管理者を信用して情報を守ってもらうしかありませんでした。管理者はプライバシーの原則と他の懸念事項を天秤にかけ、場合によっては上司の指示に従い、プライバシーを無視することができたのです。

暗号化が信用を置き換える

しかし、強力な暗号化が一般に普及すると、もはや(管理組織への)信頼は必要なくなりました。データは他者がどんな理由であろうと、どんな言い訳があろうとも、物理的にアクセス不可能な形で保護できるようになったのです。

今、データだけでなく、お金(資産)にも同じ環境が必要です。

第3者の仲介者を信用する必要の無い暗号証明に基づく電子通貨によって、お金(資産)は安全になり、取引は簡単に行えるようになります。

そのようなシステムの基本的な構成要素の一つは「デジタル署名」です。

デジタルコインには所有者の公開鍵が含まれており、それを転送するためには、所有者がコインと次の所有者の公開鍵(電子口座のID)を一緒に署名します。誰でもその署名を確認し、所有権のチェーン(暗号資産の存在)を検証できます。

A digital coin contains the public key of its owner. To transfer it, the owner signs the coin together with the public key of the next owner. Anyone can check the signatures to verify the chain of ownership.

2重支払い問題の解決

これにより所有権の保護は可能ですが、一つ大きな問題が未解決のままです。それは「2重支払い」です。

所有者はすでに使ったコインを再度署名して他の所有者に渡すことが可能です。通常の解決策は、中央データベースを持つ信頼できる企業や銀行が2重支払いを確認することですが、これでは信頼モデルに戻ってしまいます。中央の立場にある企業はユーザーを支配でき、企業を支えるために必要な手数料が少額決済を不可能にしてしまいます。

Bitcoinの解決策は、2重支払いを確認するためにP2Pネットワークを使用することです。簡単に言えば、このネットワークは「分散・公開型タイムスタンプサーバー」のように機能し、コインを使った最初の取引にスタンプを押します。「情報は広めやすいが統制しにくい」という性質を活かしているのです。詳細は、設計情報をご覧ください: 

In a nutshell, the network works like a distributed timestamp server, stamping the first transaction to spend a coin. It takes advantage of the nature of information being easy to spread but hard to stifle.

現在でも空港での入国管理には日付を含むスタンプが使われる。パスポートを見れば、何時入国したかすぐにわかる。 このパスポートに出国記録が無い状態で、再度入国しようとするとちょっとしたトラブルになるはずである。  image photo by envato lements (all rights reserved)

この結果、完全無欠の分散型システムが生まれたのです。ユーザーは自分のお金(資産)の暗号鍵を保持し、P2Pネットワークの助けを借りて2重支払いを確認しながら、直接取引を行えるのです。

February 11, 2009 Satoshi Nakamoto

サトシのタイムスタンプ

ビットコインの最初の登録処理が電子的に成立したのは西暦2009年の1月3日の午後18時5分です。この情報の電子的なタイプスタンプは、いつでも世界中のパソコンでインターネットを利用すれば確認できます。世界中のビットコインの有識者が分散された管理台帳をリアルタイムで参照していて、それぞれのアイデアで公開しているエクスプローラー(情報参照システム)が同じタイムスタンプを表示しているのです。

このデータはビットコインのブロックチェーンの最初のブロック(ブロック・ゼロ)ということで「ジェネシス・ブロック」と呼ばれています。

ジェネシス・ブロックは、そのブロックのデータにサトシ・ナカモト個人のメッセージが埋め込まれていました。

The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks

画像は、ビットコインがネット空間に初めて登録された2009年1月3日の最初の50ビットコインのブロック情報を紹介したページ( source : “learn me a bitcoin” by Greg Walker)

このメッセージは、イギリスの新聞「The Times」の記事(同年同日)の見出しで、2008年の金融危機に対する政府の銀行救済措置に言及しています。掲載された記事「Chancellor on brink of second bailout for banks」は、当時のイギリス政府が、金融危機の影響を受けた銀行への2度目の大規模な救済措置を検討しているという内容でした。

その時期、2008年に起こった世界的な金融危機により、多くの銀行が資金不足に陥り、経済全体が深刻な打撃を受けていました。イギリス政府は、最初の救済措置として多額の公的資金を銀行に投入していましたが、危機が続き、銀行の経営が依然として不安定であることから、さらに追加の資金注入が必要とされていました。

記事では、当時のイギリス財務大臣(Chancellor of the Exchequer)であるアリステア・ダーリングが、2度目の銀行救済措置を決断する可能性があることが報じられていました。

サトシ・ナカモトがビットコインのジェネシスブロックにこのメッセージを埋め込んだことは、中央集権的な金融機関や政府の政策に対する批判の象徴として捉えられています。

サトシはなぜ現れないのか?

ビットコインは革命的な技術とされています。ビットコインのデータの現在価値は80兆円を超えています。

しかるに、何故サトシは姿を表さないのでしょうか?

開発当時の彼がもし20歳なら、現在は34歳。開発時に30歳でも40代です。まだ現役バリバリでしょう。

それでも、彼が世間に姿を表さない理由は、おそらく、彼の出現によって、彼自身が、現在の銀行や政府機関のように、「ビットコインの管理者」として世界の利用者から崇拝されて「信用」され、やがてはビットコインを動かしている張本人という存在が、銀行のそれと何ら変わらない存在になってしまうからでしょう。

有識者でない民衆の中には、彼を抹殺すればビットコインは消滅すると思う人間もいるでしょうし、ビットコインに関係する不祥事が起きるたびに、その不祥事の原因追求が彼の一挙一動に向けられるでしょう。

彼が姿を表さないという「状態」は、ビットコインの本質である「管理者不在」の取引ツールが崩壊せずに自立して運用できることの証明でもあるのです。

Bitcoin は人間が行なっていたタイム・スタンプをブロックチェーン・システムが管理する仕組みである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ブロックチェーン技術の本質を少しでもご理解いただくことが本文の目的です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました