いまさら暗号資産:講座3 「匿名性」の事例

偉人鉄人超人

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前回に引き続き、一般の人々には理解しづらい「暗号資産(または暗号通貨)」について、日本の義務教育でほとんど教えられていないブロックチェーン技術を解説します。

キーワード:

  • 匿名性(anonymity)
  • 透明性(transparency)

ブロックチェーン技術は、P2Pという通信環境で共有されたデータベース上で、すべての取引において「匿名性」と「透明性」を同時にサポートし、銀行などの仲介組織を介さずに取引を成立させる仕組みです。

大事なポイントなので繰り返します。ブロックチェーン技術は:

  • – P2P通信環境で
  • – 共有されたデータベースにおいて
  • – 取引の匿名性と透明性を保ちながら
  • – 仲介組織を通さずに

取引を成立させるものです。

前回の講座2(「匿名性」と「透明性」)を参照したい方はこちらをご覧ください。本解説は続編ですので、まずは前回をお読みください。

今回は、ブロックチェーン技術を利用した暗号資産が、その「秘匿性」によって悪用され、米国で巨大な闇取引市場が誕生した「シルクロード事件」を解説します。

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シルクロード事件の概要

ロス・ウルブリヒト(Ross William Ulbricht、1984年3月27日生)は、テキサス州オースチン出身で、違法行為に手を染めた一人の秀才でした。彼は2010年頃、銀行を必要としない新しい取引システム「ビットコイン」に出会い、完全に自由なオンライン市場を創造するため、匿名性を持つビットコインを利用した通販サイト「シルクロード」を設立しました。

「シルクロード」は、匿名で商品やサービスを売買できるオンラインのブラックマーケットであり、現代のダークネット市場の先駆けとなりました。すべての取引はビットコインで行われ、ユーザーの匿名性が保たれていましたが、違法ドラッグやその他の違法商品が取引される市場として急速に成長しました。

2013年7月までに「シルクロード」は950億円相当の9,519,664 BTCの取引を行い、95万人以上の「匿名」ユーザーを抱えていました。

2013年10月、FBIは「シルクロード」を閉鎖し、ウルブリヒトを逮捕。2015年に彼は終身刑2回の判決を受けています。

今後彼の刑期が減刑されることはあるかもしれませんが、ビットコインの有効性や優位性について世界中のユーザーが疑問を持つような事態を招いたことは許されるべきではないと思われます。

シルクロード設計の矛盾

「シルクロード」は、P2P型ネットワーク、クライアント型ネットワーク、そしてユーザーの追跡を困難にするダークウェブであるTorの技術を併用していました。これにより、シルクロードの取引は本来のP2Pブロックチェーン取引とは異なるものでした。

P2Pネットワークは、AさんとBさんが直接取引を行う通信システムです。しかし、シルクロードはクライアント型ネットワークを利用しており、ウルブリヒトが運営するサーバーが取引を仲介していたため、FBIは彼のパソコンを押収することで闇取引の事実を特定することができました。

では、ビットコインを利用しなくとも「シルクロード」は実現できたでしょうか?

答えは ” NO ” です。何故ならビットコイン(ないしはブロックチェーン技術)を使わないのであれば、ウルブリヒトは必ず銀行のサービスを利用しなければならないからです。世界中の主要銀行です。

秘匿性の本質

ウルブリヒトは、売り手や買い手の情報の匿名性を確保しましたが、彼自身の情報を守ることには失敗しました。シルクロードの設計がクライアント・サーバー型であったため、ダークウェブの秘匿性に依存しても最終的には法執行機関に摘発されました。

本当に秘匿性を保つためには、ECサイトや取引所を介さず、100%P2P環境で取引を行う必要があったのです。

ウルブリヒトは、ブロックチェーンの秘匿性を喧伝することで、「売り手」や「買い手」にあたる人々に対して、「個人情報は絶対に暴露できない」という秘密保持システムを約束しましたし、そのことは貫かれたと思います。

しかし、彼の誤算は、売り手・買い手ではない「彼自身」の情報の秘匿性を確保出来なかったことであり、それが出来なかったのは、ビットコインの問題ではなく、彼がダークウェブの秘匿性に依存して設計した「クライアント・サーバー」による「シルクロード」そのものの仕組みには秘匿性がなかったからなのです。

恐ろしいことに、今でも、違法取引に関わるビットコインによる「支払い処理」は暗躍して取り、ブロックチェーンに詳しい人間が、シルクロードのようなクライアント市場システムを利用せず、直接P2P環境でビットコインなどを操作して暗号通貨の取引を行えば、警察権力を含む第三者に対して完全な秘匿性を確保できてしまうのです。

もちろんそのためには、一般の暗号通貨の取引所は一切利用せず、P2Pやブロックチェーンに詳しい技術者がメンバーとなり、数テラバイトの記憶容量を持つ高性能のパソコンを所持する必要があります。

加えて、ビットコインのデータベースは、常に公開され、有識者に監視されています。非合法な商品の取引をビットコインのデータに含めようとすれば、たちまち世界中の主要ユーザーに感知されてしまうのです。当事者の匿名性の確保は、あくまでビットコインによる取引の「必要最小限」 の情報処理だけをデータベースに残す配慮が必要なのです。

ウルブリヒト

ウルブリヒト(Ross William Ulbricht, 1984年3月27日 – )は、

テキサス大学ダラス校に全額給付の大学の奨学金で進学し、2006年に物理学の学士号を取得。その後、ペンシルベニア州立大学に進学(材料工学の修士課程)。

リバタリアニズムの経済理論に興味を持つようになり、政治哲学の書籍を愛読し、経済を論ずるために大学のディベート活動に参加していた。

2009年に州立大学を卒業し故郷のオースティンへ戻ったが、正規雇用の報酬では満足できず、起業家になることを望んでいた。多くの米国市民が、彼のシルクロード運営は、犯罪を意図するものでは無かったと主張しています。

2024年7月の報道では、大統領候補のトランプ元大統領が、彼が就任した暁には、ウルブレヒトを釈放するという公約を発表したという内容があり、注目を集めています。

今回はここまで。

次回はブロックチェーンの「透明性」の事例を解説します。

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