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約1ヶ月のご無沙汰でございます。よもやま無禄の趣味のご紹介です。
MuseScore.org が提供している無料ダウンロードの MuseScore を利用すると、本格的なオーケストラ(管弦楽)の作品を、高品質な音で再生して鑑賞することが可能です。
もちろんプロの演奏家や指揮者による表現には及びもしないですが、既存の譜面の内容を精緻にMuseScoreに打ち込みさえすれば、作曲家が意図した音楽を再生して、自分なりに速度や表現を調整することで、利用者個人の意図を反映した音楽を鑑賞することが可能。
例えば
- 長い管弦楽の作品も短めにまとめて自分のスマホに収めて、好きなタイミングで鑑賞
- 作曲家のオリジナルの強弱(フォルテやピアノといった指示)を自分流に変更
- オリジナルのスコアとは異なる旋律や和音を採用した編曲が可能
- シンプルなピアノ曲もストリングスや管弦楽の作品にビルドアップ可能
といった自由な「打ち込み」を楽しむことができる。趣味で音源を作って自分で鑑賞する分には著作権に触れることもないので、定年をすぎた音楽好きの趣味に最適です。
こういったデスクワーク中心の趣味は、毎日の運動で体調を整えながら続けないと、健康を損なう恐れがあるので、そのあたりの注意は必要。
本日ご紹介するのは、歴史的作曲家であるドイツのLudwig van Beethoven(ルトヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、1770 – 1827 )の管弦楽である、第9交響曲第2楽章です。
第9第2楽章とは
この作品は、五線譜の冒頭、Bの上にフラット(b)ひとつニ短調で作曲されていて、どの交響曲にも必ずといって良いほど存在する「スケルツォ」楽章です。このスケルツォの語源イタリア語で「冗談」であり、語源的にはふざけた音楽を意味しますが、ベートーヴェンを始めハイドンやショパンが頻繁に導入したので、「ふざけた」楽章ではなく、交響曲全体の雰囲気に色調の違うインパクトを持つ彩りをくわえる部分として解釈するものと考えて良いと思います。
スケルツォは特定の形式や拍子テンポに束縛されないが、一般的に3拍子で速めのテンポを持つものが多い。主部は「舞踏的な性質」「歌謡的性質の排除」「強拍と弱拍の位置の交代」「同一音型の執拗な繰り返し」「激しい感情表現」などが目立ち、中間部は逆に「歌謡的な性質」「牧歌的な表現」が目立つことが多いそうです。今回の第九の第二楽章もまさにそういう雰囲気が詰まった作品と言えます。
著作権にかからない楽曲の楽譜を専門に揃えているIMSLP Petrucci Music Library (https://imslp.org/) からダウンロードした譜面は、第二楽章全体で76ページ(969小節)あります。
指定速度:Molto vivace
区画 | 長さ | 小節番号 |
冒頭のアタック=主題 | 8小節 | 1 – 8 |
第1主題繰り返し | 142小節 | 9 – 150 |
つなぎ部分 | 8小節 | 151 – 158 |
第2主題前半部 | 241小節 | 159 – 399 |
第2主題後半部 | (229小節)+146小節 | 400 – 545 複数の繰り返し# |
第一主題の復帰 | 冒頭の8小節 | 546 – 553 |
主題の繰り返し | 142小節 | 554 – 695 |
第2主題繰返しから完結まで | 274小節 | 696 – 969 |
# 第2主題後半の146小節 (400 – 545)の分解
区画 | 長さ | 小節番号 |
Presto の冒頭部分 | 28小節 | 400 – 427 |
転調部分・イ長調:(第一セット) | 8小節 | 428 – 435 |
転調部分・イ長調:(第一セット) | 7小節 | |
転調部分・イ長調:第二セット | 70小節 | 436 – 505 |
転調部分・イ長調:第二セット | 同上 | 436 – 505 |
転調部分・イ長調:第三セット | 40小節 | 506 – 545 |
計算 = 28 + 8 + 7 + 70 + 70 + 40 = 223小節(スコアは 146小節)
molto vivace は 「非常に速く活発に」 という指示になります。一般的なテンポの目安としては ♩= 132〜160 くらいの範囲とされることが多い。
これだけの大作をベートーヴェンは、全く耳が聞こえない状態で、自分の頭の中の音の記憶とピアノを打つ指から伝わってくる振動を受け取る感覚だけで書き上げたのです。第二楽章にも、半音だけの移動で徐々に旋律の表情を変化させる独特の手法が織り込まれています。
ただ驚嘆するばかりです。

ウィキペディアにアップされたベートーヴェンの署名
打ち込み限界(その1
筆者の打ち込み作業は2025年の1月中旬に始まり、この記事をアップする3月初頭までの50日の仕事の合間に少しづつ進めてきましたが、これが思った以上にトラブル続きでした。
SNSに出回っている演奏内容と、筆者が中高生の頃に何度も拝聴したカールベーム指揮のベルフィンフィルの音を目標として打ち込んだのですが、の強弱は譜面通りに指示しても全く期待通りに再生できず、結局は独自の判断で、強弱は原則 mp(メゾピアノ)を最大として、余程の必要がない限り mf(メゾフォルテ)やフォルテを使わないように注意してようやく納得のいく強弱表現になりました。
次に第一主題と第二主題の繰り返し部分ですが、これらは打ち込みの中でデータがパンクしたようです。打ち込んだ音のある特定の部分が異常に長く「鳴りっぱなし」になるバグが発生しました。ランダムに引っかかった単一音が7〜8小節を通して「ビーッ」鳴りっぱなしになります。酷いものです。耐えられません。
時間をかけて犯人である音を突き止めて、その音を打ち直しても症状は同じです。仕方なくその音を「やむを得ず」消去して問題の音は無しで再生するとようやく鳴りっぱなしが収まるのです。
ところが、今度は別の場所で別の音が「鳴りっぱ」になってしまいます。正直困り果てました。
結局のところこの手のバグを解消するためには、問題が起きたセクター全体の繰り返し記号を消去して、繰り返し機能をキャンセルするしか無い。つまり、繰り返し設定をキャンセルすれば「鳴りっぱ」のバグが消えるということを突き止め、現在は作曲家の意図を無視した「繰り返し無し」の第二楽章になってしまっています。

「鳴りっぱ」問題は、(1)楽曲の中に繰り返し部分があるという条件と、(2)一度フォルテやメゾフォルテを指定した部分をごじつメゾピアノなどの音量を制限する指示に変更した場合に発生するようです。
これからMuseScoreの打ち込みを作業される方は、最初の打ち込みにはフォルテ系の強さを使わず、最大でもメゾピアノ程度に抑えておいて、再生しながら最終的にメゾフォルテやフォルテを部分的に変更する手順を踏むことをおすすめします。
もちろん、別の方法としては、繰り返し部分をシンプルにコピー・ペーストしてスコアを長くしてしまう方法があります。クラシックでなく、ポップスなどの楽曲の場合は、あらかじめその方向で打ち込みをするべきです。
スタッカートの効果
さて、第二楽章の特徴として、テンポの早い3拍子でメリハリのある再生を実現するためには、既存の譜面通りの打ち込みでは全くダメでした。全体的にここのノートがしっとりしすぎてはっきり聞こえてこないのです。
そこでアクセントを置くための “>“ を打ってみると、今度はアクセントが強すぎて非常にバランスの悪い結果になります。
ここで効果を発揮するのはスタッカートです。記号としては各音符の上または下に“・”が付きます。つまり点を打つのです(ショートカットは「シフト+S」)。
かくして、筆者の第二楽章のスコア(MuseScore版)はスタッカートだらけとなりましたが、これを再生してみると、ようやく目指す第二楽章に近いのです。思うに、これはベートーヴェンの意図とは別の意味で、多くの指揮者や演奏者がスタッカートを多用する第二楽章を好んでいるのかもしれません。
この辺りの好き嫌いは個人の好みの問題なのですが、筆者の記憶に染み込んでいるカールベーム(ドイツ語: Karl Böhm, 1894 – 1981)の演奏はスタッカートだらけです。
但し、最も強い音で表現するフォルテシモの瞬間はスタッカートを外してフォルテマークを打つ方法がベストなようです。
打ち込み限界(その2)
さて、この第9第2楽章は970の小節で完成するのですが、果たしてMuseScoreはこの量のデータを扱えるのでしょうか?
筆者はSNSの中でクラシックを打ち込んだ事例の紹介を数多く見てきていますが、この手の長さ(といってもクラシック曲の中ではむしろ短い楽曲ですが)のスコアを全部打ち込んだ事例を見ていません。
前述の「鳴りっ」問題もあり、筆者は「果たして全部飲み込めるのか?」という不安にかられています。まだ全てを打ち込めていないのですが、MuseScoreの許容量を超えてしまえば、このサイトでも紹介できなくなってしまうリスクがあります。
そこで、
今回は以下の400小節分に、無理やり曲の最後尾を連結した簡易バージョンの第二楽章をアップすることにしたのです。
- 第一の主題部分:8小節(1 – 8)
- 主題の繰り返し:142小節(9 – 150)
- つなぎ部分:8小節(151 – 158、最後の3小節は無音)
- 第2主題前半部:241小節(共通部分は229小節)(159 – 399)
この程度の長さであれば、問題ありませんし、読者の皆さんも、下手の横好きの筆者の打ち込み「第二楽章」を延々と試聴する必要が無いわけです。
MP3 形式に落とした再生音と、スコアのPDFをアップして、ご参考に供します。前述の通り、全ての繰り返し指示記号は外してありますから、最初から最後までリピート無しに一気に再生しています。
2025年3月4日9:00に音声のファイルを更新しました。投稿当初(3月3日)のものは旧い情報でした。
ご注意 ここにアップしたPDFの譜面は、原典のスコアを100%反映していません。また、ブロック毎のリピート指示も外してあります。したがって、オリジナルとはかなり異なる内容となっております。参照する場合にはご注意ください。
個人的な感想ですが、2ヶ月かけて大型戦艦のプラモデルを作るような「打ち込み」を終えました。これを聴いた上で、改めてカールベームの第二楽章をSNSで聴いてみると、偉大な作曲家の表現力の素晴らしさに圧倒される思いです。その意味で、こういった打ち込みの試みは、作品の深層表現と音楽家の表現力をより鮮明に再体験できるという感動を味わうことができます。
ではまた次の記事でお会いしましょう。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
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