いまさら暗号資産:講座4 シルクロード秘話

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アイキャッチ画像は、違法サイトの犯人のPCを押収する瞬間を「際限」したイメージ動画の場面です。出典は文末を参照ください。

前回の講座では、米国の青年、ロス・ウルブリヒトがダークウェブとビットコインを利用して数年間で巨万の富を積み上げた結果、連邦捜査局(FBI)に逮捕され無期懲役となった概要を紹介しました。

この講座では、事件の主題であった「匿名性」について、逮捕されたウルブリヒトの戦略がどのように働き、どのような経緯で逮捕されるに至ったのかを掘り下げます。

前回の講座で、筆者は、ビットコインの匿名性は破られなかったが、「シルクロード」というウェブサイトの秘匿性は破られたと説明しました。

このことについてもう少し説明が必要です。

何故なら、彼のウェブサイトは米国市場最大の闇取引システムという社会問題を引き起こし、犯罪捜査のプロであるFBIが2年間本気で捜査したにもかかわらず、突破できなかったのです。

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予想外の「糸口」

シルクロードの首謀者であるウルブリヒトの存在を暴くために、FBIは米国の10箇所以上の支局と捜査官を動員し、インターネットの専門家の力も借りて2年間捜査しました。

しかし、FBIの捜査方法ではいずれも首謀者の特定には至りません。

皮肉なことに、世界中の誰でもシルクロードというウェブサイトにアクセスできていたのに、そのウェブサイトを管理しているウルブリヒトの個人情報を特定できなかったのです。

ネットに詳しい人材とFBIが協力しても首謀者を特定できなかった。 写真はイメージ画像。 image photo by envato elements (all rights reserved)

つまり、Tor というダークウェブとビットコインの秘匿性の効果はそれほど堅牢だったということです。

ウルブリヒトは、当時シルクロードのウェブ上で “DPR” (Dread Pirate Roberts) という偽名(アバター)を使っていました。彼の役回りがシルクロードの管理者であることは公開されていました。問題は、そのDPRというアバターを名乗る首謀者を暴くことです。

そして、この秘匿性を突破したのは、FBIではなく、小さな税務捜査官のオフィスだったのです。

FBIとは無関係のこの捜査官は、ある時、グーグルサーチに引っかかって出てきたウルブリヒトのメールアドレスを発見したのです。

デジタル・タトゥー

インターネットの利用者が知っておくべきリスクの一つに、「デジタル・タトゥー (digital tatoo) 」があります。これは、文字通りデジタルの刺青(いれずみ)、つまり「消えない情報」のことです。

逮捕される2年前、ウルブリヒトが個人的に「シルクロード」の開発を手がけていた頃に、彼は一つのミスを犯していたのです。

それは、ネット上にある、フォーラム、つまり有識者や同じ趣味を持つユーザーが意見交換や情報交換をする談話室のようなウェブサイトです。

ウルブリヒトは、自分が開発していたシルクロードの情報を、プログラマー等が集まるフォーラムで紹介していたのです。

当時の彼は、このウェブサイトが、まさか歴史に残る闇取引サイトに化けるとは思っていませんから、自分の文章の中に、迂闊にも自分のメールアドレスを記載していたのです。

もちろん、シルクロードが社会問題になる頃には、彼は自分の投稿文書をことごとく消去する手続きを取っていました。

ところが、ネット社会においては、ユーザーが自分のデータを消したと確信していても、実はウェブサイト側の情報管理の関係で実際にはウェブサイトの裏で動くデータベースに残っています。

さらに、そういった過去のデータが、何らかのキーワードでグーグル検索に引っかかって、表に出てきてしまうことがあるのです。

2年前の記事であっても、シルクロードというウェブサイトの設計者を名乗るウルブリヒトという人物の記事であり、その中にメールアドレスがあったのですから、これは非常に有力な手がかりです。

逮捕の決め手は「現物押収」

2013年にシルクロードが社会問題に発展した当時、サイトの管理者である DPR が誰なのかは判明できず、唯一の手がかりは二年前のデジタル・タトゥーである、当時の開発者、ロス・ウルブリヒトのメールアドレスでした。

ウルブリヒトの身元は判明したのですが、実際に彼が問題のシルクロードの管理者だという証拠はありません。あるのは2年前の「たまたまシルクロードというネットビジネスのサイトの開発者」というだけです。

ただし、彼が犯人だと思える手がかりは続々と出てきました。彼が「リバタリアン」という権力者による民主社会の管理に反対する学説の信奉者であったことは、シルクロードという匿名取引サイトの運営の動機に繋がりました。

2013年の9月、FBIは、10名の捜査官をサンフランシスコのウブリヒトの生活圏に配備して、近隣の市民を装いながらウルブリヒトを監視します。そして彼の生活と日々の活動状況を調べたのです。

手がかりが出てくれば、FBIは本領を発揮して犯人を追い詰める。 画像はイメージです。 image photo by envato elements (all rights reserved)

10月1日、彼は、市内にあるネット環境を提供している図書館で現行犯逮捕されます。

逮捕ために、FBIは数名のチームで図書館に同行。ウルブリヒトが自分のラップトップを開けてシルクロードのサイトの管理を始めた瞬間に、2名が彼の背後で「口喧嘩」を装います。

ウルブリヒトが背後にいる2名の口喧嘩に気を取られて振り返った瞬間、別の捜査官が、ウルブリヒトのラップトップを持ち去り、開いている画面の全ての情報を押さえたのです。

彼の秘匿性を突破するためには、唯一この方法しか無かったのです。そして現物で確認できたことは;

  • 彼はシルクロードのチャット機能を使ってアバターの DPR名義で関係者と会話中
  • 彼のPCはシルクロードのウェブサイトに「管理者」としてログインした状態
  • 彼はPC内部にある自分の「日記」や「情報リスト」をウインドウに出して参照中

これらは、全てウルブリヒトの現行犯逮捕の根拠になったのです。

システムの秘匿性と犯罪

このことから、我々が学んだことは、

コンピューターを活用する環境で、完全な秘匿性を確保することは、技術的には可能だが、その秘匿性は、合法的な活動として管理された枠組みの中で初めて確保できる効果であること

そして、個人が非合法な活動に電算機技術を利用する場合、個人の知見を超えるデジタル・タトゥーや、本人とパソコンの現物を押さえることで、技術的に有効であった秘匿性は突破されてしまう。

という事実なのです。

つまり、技術は「合法なら活かされる」が、「非合法なら、あらゆる手段で暴かれる」ということになります。

この記事の情報源

この記事の内容は、動画サイトにアップされている米国の報道番組、SLICE Full Doc の内容を出典としています。

以下は、この番組を紹介する文章と動画情報;

ロス・ウルブリヒトは、”Dread Pirate Roberts” として知られ、2011年にダークネット市場のウェブサイト「シルクロード」を開設したとき、30歳未満の若きアメリカの天才でした。このサイトは瞬く間に地下経済の「Amazon」のような存在となり、インターネット上で最大のドラッグ市場となりました。ビットコインという有名な代替デジタル通貨を使えば、偽造書類、クレジットカード、武器なども購入できたのです。

FBIやDEA(麻薬取締局)、テロ対策部門を含む犯罪捜査機関の最高の捜査官たちが彼を追跡するのに2年以上かかりました。ロス・ウルブリヒトの物語は、「起業家2.0」の一例です。彼は2013年10月に逮捕され、2015年2月に終身刑を言い渡されました。

Documentary: Ross Ulbricht – Prince of the Darknet

Directed by: Julie Peyrard

Production: Pallass Télévision

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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